ブラキシズム治療とは
ブラキシズムとは、一言でいうと「歯ぎしり」のことです。
具体的には無意識化で行う、食いしばりやギリギリと歯をこすり合わす動作です。
ブラキシズムには、2種類あり、縦方向の噛みしめをクレンチング、横方向のこすり合わせる動作をグラインディングと呼びます。安静にした状態では、上下の歯の間に空隙があることが理想的なため、ブラキシズムがある場合、顎の痛みや、歯のすり減りといった症状が起こりやすいことがわかっています。
ブラキシズム治療はこんな方におすすめ
- 就寝時の歯ぎしりを指摘された方
- 歯や被せ物、詰め物のすり減りを指摘された方
- 肩こりや偏頭痛が多い方
- 寝起きに、顔や顎に筋肉のこわばりがある方
- 歯と歯肉の境目にくさび状にえぐれた箇所がある方
歯ぎしり・食いしばりの種類
“歯ぎしり・食いしばり”をブラキシズムと言いますが、症状によってさまざまなタイプに分けられます。
グラインディング(歯ぎしり)
グラインディングは、上の歯と下の歯をこすり合わせるブラキシズムです。
一般的には、歯ぎしりとして知られています。
周囲の人にギリギリという音が聞こえるなら、グラインディングの可能性が高いです。
クレンチング(食いしばり、噛み締め)
クレンチングは、上の歯と下の歯を強く噛みしめるブラキシズムです。一般には、食いしばりとして知られている症状です。
クレンチングは、音を出さないブラキシズム症状なので、音が出るようであればクレンチングとはみなされません。
タッピング
タッピングは、食べ物を噛んでいないのに、上の歯と下の歯をまるで食べ物を噛んでいるかのように噛み合わせるブラキシズムです。したがって、食事中に上下の歯を噛み合わせるのはタッピングではありません。
タッピングをしていると、周囲にカチカチという音が響いてきます。
ブラキシズムの原因
ブラキシズムの原因は多因性だと考えられており、未解明な点も多く存在します。関連すると考えられている要因は以下の通りです。
ストレス
お仕事や勉強の心配事など、精神的なストレスの他に、スポーツなど身体的な負荷によるストレスが原因となり、歯を食いしばることがあります。
休息をしっかりと取り、リラックスすることで、ブラキシズムのリスクを減らしましょう。
睡眠中の覚醒
睡眠にはサイクルがあり、眠りの浅いレム睡眠と、深いノンレム睡眠があります。特に脳が覚醒状態であるレム睡眠では、歯ぎしりが起こりやすいことが分かっています。
ナイトガードを装着することが効果的です。
カフェイン・アルコール
カフェインやアルコールにより、自立神経が刺激されることで、歯ぎしりが起こることがあります。カフェインが睡眠を妨げることは知られていますが、アルコールも睡眠を浅くしてしまうため注意が必要です。
歯列接触癖
口を閉じた状態で、上下の歯が接触していることを、歯列接触癖(TCH:Tooth Contacting Habit)と呼びます。
TCHは、長時間にわたって筋肉や、顎関節に負担がかかった状態です。集中する作業を行う時などは、適度に休憩をはさみ、上下の歯を接触させないように意識しましょう。
歯ぎしり・食いしばりが口腔内や体に与える影響
歯ぎしり・食いしばりは、無意識のうちに上の歯と下の歯を強い力で当てることで、お口にさまざまな影響を及ぼします。
顎関節症
ブラキシズムを生じると、顎関節を構成する下顎頭という下顎骨の頂上部分の位置が後ろにずれます。これに伴い、顎関節のバランスが崩れたり、顎関節周囲の血液の流れが悪くなったりすることで、顎関節症を引き起こします。
筋肉痛
お口を開け閉めするときに使う筋肉を咀嚼筋といいます。歯ぎしりや食いしばりをしていると、この咀嚼筋を過度に使うため、咀嚼筋が筋肉痛を起こすようになります。
歯ぎしりや食いしばりは、頬やこめかみ、首筋などさまざまなところの筋肉痛の原因となります。
歯のすり減り
一日のうち、上下の歯が触れ合う時間はほとんどなく、ごくわずかな時間を除いて上下の歯は当たっていません。
歯ぎしりや食いしばりを続けていると、上の歯と下の歯が当たる時間が長くなり、歯が少しずつすり減っていきます。
歯の破折
奥歯で食べ物を噛む力は、最大でご自身の体重くらいと言われています。また、歯ぎしりや食いしばりは無意識に行うもので力の調整ができません。
このような強い力で歯ぎしりや食いしばりを続けていると、歯が耐えきれず、歯にヒビが入ったり割れたりすることもあります。
歯のくさび状欠損
歯のくさび状欠損とは、歯の付け根付近がえぐれたように削れる症状です。くさび状欠損の原因は種々ありますが、歯ぎしりや食いしばりもそのひとつです。
歯ぎしりにより、歯の付け根付近に力が集中することで歯に歪みが生じ、少しずつ欠けていくと考えられています。
象牙質知覚過敏症
歯のくさび状欠損が生じると、歯の表面からエナメル質が失われ、内側の象牙質が露出します。
象牙質の中には歯の神経の細かな枝が無数にあり、この枝が表面に出てくることで、歯が冷たいものにしみるようになります。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に一定回数以上呼吸が止まる病気です。
ブラキシズムと関係なさそうですが、ブラキシズムによって顎関節のずれが生じることが睡眠時無呼吸症候群を引き起こすことが知られています。ブラキシズムが強い人ほど、睡眠時の無呼吸状態の回数も増える傾向があります。
自律神経の不調
顎関節の周囲には、自律神経に関係する神経の枝が伸びています。
ブラキシズムにより下顎頭の位置がずれ、顎関節に余分な負荷が加わることで、自律神経の神経線維が悪影響を受けると、自律神経系の病気を引き起こすことがあります。
片頭痛
片頭痛を認める方のほとんどで、歯ぎしりや食いしばりが認められています。
歯ぎしりや食いしばり時の上下の歯の接触面積も広範囲に及ぶ上、歯ぎしりや食いしばりをしている側で片頭痛も生じる傾向があり、片頭痛との関連性が示唆されています。
睡眠の質の低下によるうつ症状
ブラキシズムは、うつ症状にも関係しています。
歯ぎしりや食いしばりのレベルが上がるにつれて、レム睡眠が邪魔されます。レム睡眠が十分できなくなると、睡眠の質が低下し、うつ症状が現れやすくなります。
当院のブラキシズム治療
上下の歯が接触することを意識的に改善することから始めます。ボトックス注入やスプリント治療も効果的です。
ボトックス注入
ボトックス注入
無毒化したボツリヌス毒素の注入により、筋肉の働きを弛緩させる(弱める)効果があります。ブラキシズム治療にも効果的で、歯を咬み合わせる筋肉である咬筋に注射することで、症状を緩和します。効果は一時的で半年程度で元に戻ります。
スプリント治療
ナイトガード
スプリント治療では、歯型を採取し、透明のマウスピースを製作します。就寝時に装着するものは、「ナイトガード」と呼ばれることがあります。スプリントにより、歯や被せ物、詰め物がすり減るリスクを減少させることもできます。
ブラキシズム治療のメリット
ブラキシズムは、歯や歯周組織に悪影響を与える習癖のため、治療により改善することが理想的です。
睡眠の質の向上
ブラキシズムの患者様の中には、就寝時の歯ぎしりを指摘されたという方が多くいらっしゃいます。ブラキシズムは、ストレスや飲酒など、眠りが浅いタイミングで起きやすいことが分かっています。
肩こりや偏頭痛の緩和
ブラキシズムは、咬む動作に関連する筋肉に負荷がかかった状態です。口を閉じるには、咬筋や胸鎖乳突筋といった頬や頸から肩にかけての筋肉が関係します。
ブラキシズムの解消は、筋肉の過剰な働きを予防し、肩こりや偏頭痛の緩和に効果的です。
歯質の保護
日常的に、ブラキシズムにより歯質に負担がかかることで、歯間や歯根の破折につながることがあります。特に、神経が失活した歯では、歯質が生活歯に比べてもろいため、歯質が欠けることや、亀裂が入り歯根破折のリスクがあります。
補綴物(詰め物・被せ物)の保護
歯質と同様に、補綴物もブラキシズムによってすり減ることで、割れる可能性や欠けてしまうことがあります。補綴物が破損した場合には、再治療が必要となるため、費用や治療時間がかかるというデメリットがあります。
くさび状欠損の予防
歯冠の歯肉の境目に近い部分を、歯頚部と呼びます。
ブラキシズムでは、歯頚部の歯質に負担がかかり、う蝕(虫歯)でもないのにくさび状に歯質が欠損してしまうことがあります。清掃不良や知覚過敏の一因になることがあるため注意が必要です。
ブラキシズム治療のデメリット
ブラキシズムは口腔悪習癖の一種であるため、習癖を除去することが理想的ですが、治療のデメリットについて解説します。
スプリント装着時の違和感
スプリントは、歯列のみをカバーするように製作されるため、装着の違和感が少ないような設計になっています。しかし、嘔吐反射がある方など口腔内の感覚が敏感な方は、慣れるまで強い違和感を生じる場合があります。
う蝕リスク
夜間のスプリント装着時は、ブラッシングにより汚れを除去した後に行うことが原則です。スプリントを装着することで、唾液による自浄作用が歯列に働かないため、清掃不良の場合、う蝕のリスクが高まります。
スプリントの調整
ブラキシズム治療でセットするスプリントは、一度調整したら終了ということではなく、数回の調整や経過の確認が必要です。合わないスプリントの装着は、歯や歯周組織にダメージを与える可能性があります。
ボトックス効果
美容医療では小顔効果にも用いられるボトックス注入ですが、ブラキシズム治療を目的にもともと頬にボリュームがない方が行うと、一時的に頬がやせたように感じる場合があります。症状は時間経過により改善します。
咬合の不安定
歯を削って咬み合わせを調整することもブラキシズム治療には有効ですが、削ると元には戻らないため、第一選択は歯を削らない治療です。不用意な咬合調整は、咬合の不安定につながるため症状を悪化させることがあります。
ボトックス注入の流れ
ボトックス注入は、咬筋と呼ばれる頬の筋肉に行われます。
ボツリヌストキシンの効果により、咬筋の働きが弱まり、ブラキシズムの症状が緩和されることが期待できます。効果の持続は個人差がありますが、6か月程度有効です。
01
診察・相談
診察・相談では、現在の症状やお悩みについてお伺います。
安静時の咬み合わせの状態や、頬や肩にかけての疼痛の有無など、自覚症状について質問します。
02
診察
口腔内診査を行い、歯の咬み合わせや、補綴物の状態からブラキシズムの有無を診断します。続けて、お顔や頸の筋肉を触診し、周囲の組織への影響を確認します。
03
施術当日
治療の所要時間は10分程度で完了します。
ボトックス注入箇所を消毒し、表面麻酔を行った後、細い注射針で咬筋にボトックスを注入します。
04
治療効果
治療効果は、施術後早くて翌日から1週間程度で実感できます。
治療効果を実感できない場合や治療効果を高めたい場合には、再注入を検討します。
05
治療経過
ボトックス注入の効果は、個人差によりますが、6か月程度は持続することが多いです。再度注入することで、ブラキシズムの症状を緩和できます。
スプリント治療の流れ
スプリント治療は、歯列を覆う薄い装着感の少ないマウスピースを装着する治療方法です。
ブラキシズムによって歯がすり減ることを防止する代わりに、スプリント自体が経年的にすり減っていくため、調整や再製作が必要です。
01
診察・相談
診察・相談では、現在の症状やお悩みについてお伺います。
安静時の咬み合わせの状態や、頬や肩にかけての疼痛の有無など、自覚症状について質問します。
02
診察
口腔内診査を行い、歯の咬み合わせや、補綴物の状態からブラキシズムの有無を診断します。続けて、お顔や頸の筋肉を触診し、周囲の組織への影響を確認します。
03
印象採得・装置製作
スプリント治療をすることを決定したら、歯型を採ります。その歯型をもとに装置を製作し、次回来院時にお渡しします。
04
治療開始
スプリントを装着し、装着時の違和感や咬み合わせの状態を確認し調整を行います。保管や洗浄方法についてお伝えし、装着を開始します。
05
調整・メインテナンス
スプリントは、不具合のあるまま使用を続けると症状の悪化につながります。定期的な通院により、治療効果の確認を行います。
ブラキシズム治療 (歯ぎしり治療)の料金・費用
メニュー名 | 本数・回数・内容 | 価格 | モニター価格 |
---|---|---|---|
スプリント治療 | 歯ぎしり用 | 33,000円 | |
スポーツ用 | 55,000円 | ||
ボツリヌストキシン注入 | ニューロノックス 1回全体 | 49,500円 | |
ボトックス 1回全体 | 79,200円 | 57,200円 |
ブラキシズム治療のよくある質問
自分では気づけていない咬みしめる癖を治す方法はありますか?
通常、安静時には上下の歯は接触せず安静空隙と言って、2~3㎜の空間があることが理想的です。しかし、ストレスなど様々な原因により、安静時に上下の歯が接触している状態を歯列接触癖(TCH:Tooth Contact Habit)と言います。
TCHはブラキシズムを悪化させるため、意識的に上下の歯を接触しないように心がけましょう。行動療法として、タイマーをかけて定期的に接触を解消する、目につくところにメモを貼って思い出すなど、ご自分で習癖を改善することからはじめましょう。
歯ぎしりの癖は治りますか?
ブラキシズムは、未だ原因が解明されていないため、根本的な治療方法がありません。そのため、習癖を除去することから始めて、症状を緩和していきます。
当院では、スプリント治療やボトックス注入など、保存的な療法から治療を開始しています。
子供の歯ぎしりも治療してもらえますか?
子供の歯ぎしりの多くは成長過程の一時的なもので、心理的なストレスや疲労などに影響を受けます。
歯並びや骨格のアンバランスに不安がある場合には、まずは小児歯科専門医を受診することをお勧めします。
ブラキシズムがあってもインプラント治療はできますか?
確かにブラキシズムの症状があることは、インプラントに理想的な環境ではありません。
インプラントは大きく分けて、顎骨に埋入するインプラント体と歯の形を復元する上部構造から構成されます。咬合に関与する上部構造の形態をプロビジョナルレストレーション(仮歯)の段階で審査を行うことで、治療を行うことができます。
まずは、口腔悪習癖の1つであるブラキシズムの除去から開始しましょう。
内服薬の服用と歯ぎしりに関連はあるのでしょうか?
ブラキシズムの原因となる可能性がある薬物にはいくつかあります。
時期や原因がご自分で判断できる場合には、かかりつけ医にご相談ください。当院にも、現在服用中のお薬についてお薬手帳の共有をお願いします。必要であれば、処方元の医科の先生に当院から照会状をお送りし、ご相談いたします。その上でTCHの除去やスプリント療法、ボトックス注入など保存的な治療から開始していきます。
ブラキシズム治療 (歯ぎしり治療)の治療概要
治療方法 | ブラキシズム治療 (歯ぎしり治療) |
---|---|
治療説明 | 熱可塑性樹脂シートや義歯床用アクリックレジンなどで製作された口腔内装置の装着やボツリヌストキシン注入による咬合の緩和を行います。 |
治療費 | 29,700円〜79,200円 |
治療の副作用(リスク) |
・長期間に及ぶ口腔内装置の使用例では、咬合関係の変化が生じるリスクがある ・咬合調整による歯の一部の削合 |
適応症例 |
・咀嚼筋の過度な緊張症例 ・不随意の噛み締めや食いしばり症例 ・咀嚼器官の不調和 ・歯の著しい咬耗症例 ・咬合性外傷 |
ダウンタイム | なし |
不適応の症例 |
・重度の歯周病神経筋伝達機構障害の方 ・心臓、肝臓、腎臓障害のある方 ・抗凝固剤服用既往のある方 ・閉塞性隅角緑内障の方 ・薬物などにアレルギーのある方 ・妊娠、授乳中の方、妊娠予定の方 ・喘息など呼吸器疾患の方 |